竜に選ばれし召喚士は口説き上手な外交官に恋の罠に落とされる
 ナトラージュが複雑そうな様子でそう言ったので、これは先は長そうだとラスは下に向かって大きく息を吐き、足元の床を凍らせてしまっていた。

 いつもはこういう事に細かいナトラージュに怒られると思ったのか、慌ててダンダン! と音をさせて足踏みして氷を散らしていた。

 その様子をぼんやりと見ながら、ナトラージュは白いローブのフードを下ろした。

(……やっぱり、今日も来てくれていた……どうしよう。でも、まだ会いたくない……)

 助けてくれた彼を、このままずっと避け続けても、仕方のないことは自分でもわかっていた。いつかは彼と、きちんと向き合わねばならないことも。

 オペルの外交官ヴァンキッシュ・ディレインは彼本人が話していた通りに、税や価格の交渉事のため各地の視察なども多い。だが、彼を訪ねてやって来る誰かと城の中で会うことも仕事だ。よって、空いた時間には以前に会った事のある、召喚を練習していた広場やナトラージュの私室前で、いつ来るとも知れぬ彼女を待つことが出来る。

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