竜に選ばれし召喚士は口説き上手な外交官に恋の罠に落とされる

16 嘘

 昼日中には太陽に熱された空気も、夜には冷えて風が吹けば涼しい。

 ナトラージュは部屋まで送ってくれているヴァンキッシュの隣を歩きながら、彼がさっき一瞬だけ見せてくれた泣き笑いのような、あの表情を思い出していた。

(あれが……本来の彼? 言いたいことも、辛いことも、全部全部覆い隠すようにして……いつも、何でもない顔をして、笑っているの?)

「……グリアーニ? 何かあったのか」

 ヴァンキッシュが訝しげな声を出したので、目線を上げると、ナトラージュの部屋の前には彼の従兄弟が難しそうな表情で腕を組んで待っていた。

 グリアーニはいつもの近衛騎士隊長の騎士服ではない。帰る間際なのか、以前彼の家を訪ねた時のような楽な服装をしていた。

「殿下がお呼びだ……俺もお前を探す係を拝命して長いが、この役目は本当に不本意だよ」

「こんな時間に? ……あまり……良い話では、なさそうだな。仕方ない。じゃあ、ナトラージュ。また会いにくるよ」

 ヴァンキッシュは自分をわざわざ探しに来たグリアーニの言葉を聞き、瞬時に仕事をする男性の真剣な表情になった。

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