竜に選ばれし召喚士は口説き上手な外交官に恋の罠に落とされる
 それに、思い返せば泣けてしまいそうなくらいに優しかった。命懸けで助けて、それなのに訳も分からずに避け続けられていたのに、やっと会えた時も決して責めたりしなかった。

(……本当に、辛そうだった。なんで、あの時、グリアーニ様の腕を取っちゃったの……ただの嘘なんだから、ヴァンキッシュ様でも良かったはずなのに)

 ナトラージュにとって、あれは単なるその場凌ぎの嘘だった。

 また妹に自分の物を取られるのではないかと恐れているだろう姉に、そう言う事実があると言えば安心するだろうという、とても短絡的な考えだった。

(そうだ。あの人の容姿が良すぎるから、自分には不釣り合いに見えるだろうと……咄嗟にそう思ってしまったんだ。あの容姿だって、ヴァンキッシュ様自身にはどうしようもないものなのに……もう、言い訳しようがない。なんて……ひどい事をしてしまったの……)

 傷ついた表情。聞いたこともない辛そうな声。何もかもが、すべて夢なら良かったのに。

 呆然としているナトラージュの耳に、バサバサと翼の音がして、心配したラスが近くまで来たのだと知れた。

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