竜に選ばれし召喚士は口説き上手な外交官に恋の罠に落とされる

17 暗い森

 傷つけてしまった彼を追いかけて誤解を解こうとようやく心が決まった時には、もうヴァンキッシュの姿はどこにも見えなくなっていた。

 殿下に呼ばれたというからには、王族の居る内殿に向かったのだろう。けれど、ナトラージュの身分で入ることを許される範囲にはもういなかった。

 さっきラスが言ってくれたように、彼の仕事を終わるのを待とうにも、何処で待って良いかわからない。

 内殿の前には警備担当の衛兵が数人立って居て、走って来た荒い息をついているナトラージュを不思議そうに見ていた。彼らも仕事だ。経緯を話して泣き落としをしたところで、きっと困らせるだけだろう。

(……今まで、いつも彼の方から会いに来てくれていた。私は向こうからしてくれることばかりを受け取るだけで、何も返せていなかった。あんなに沢山好意的な言葉や態度をくれていたのに)

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