竜に選ばれし召喚士は口説き上手な外交官に恋の罠に落とされる
「……ありがとうございます。いつか、絶対に叶えたいと思います……ところで師匠。今日は何のご用ですか?」

 師匠に呼び出されたというのに、特にそれらしいことを言われずに、ここに来てからずっと世間話をしているようだ。

 ナトラージュは、本題を聞きたくて質問をした。

「ああ。すまない。話が長いのも、年寄りの悪い癖でね……こちらに、来てくれるかね」

 アブラサスが椅子から立ち上がり、手招きされるままに案内された奥の部屋は、導師として立派な部屋を与えられている彼の私室だ。部屋を囲む大きな本棚に並ぶ豪華な装丁の沢山の本、美しい幻獣の像など様々な物で溢れかえっている。

 彼はその中にある、一本の真新しい鍵杖を手に取りナトラージュに手渡した。

「もう、見習いではない。ナトラージュは一人前の召喚士になったからね。これは、君の物だ。大事に扱いなさい」

「……師匠」

 遠目からはなめらかに見える白い杖の表面には、召喚術を高めるような様々な力を持つ図形や意匠が施されている。ざらついている杖に手を滑らせると、一人前の証であるこれは自分のものになるのだと急に現実味を帯びてきた。

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