竜に選ばれし召喚士は口説き上手な外交官に恋の罠に落とされる

03 不法侵入

 先に泣いてしまったのは、どちらだったのか。もう今では、覚えていない。

「……ナトラージュ。貴女は、何もかも奪っていくのね。私の欲しかったもの……全部」

「違う……本当に。そんなつもりは……ないわ。信じて。お姉様……ごめんなさい」

 姉のスカーレットは眉を寄せて、唇を震わせた。我慢強く、今まで弱音など吐いたことのなかった姉が初めて浮かべた表情。それを見て、胸がぎゅうっと締め付けられて苦しくなった。

 彼女が、この出来事によって、どれだけ深く傷ついたかを思い知らされるから。

「……謝らないで。もう。私に、何も言わないで」

「お姉様……」

 くるりと背を向けた、姉スカーレットの遠ざかって行く細い背中。寂しそうで悲しそうで、声には出さない悲痛な嘆きがどこからか聞こえてくるようだった。

 ナトラージュは、その光景を思い出す度に、どうしようもないやるせない思いが心の中に広がった。

 彼女をそんな思いにさせてしまったのは、他でもない自分の存在だった。ゆっくりといなくなってしまう姉に、もう何も言えることはない。

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