竜に選ばれし召喚士は口説き上手な外交官に恋の罠に落とされる
 本当は追いかけて、全部自分の気持ちも何もかも説明したかった。けれど、それが何になるんだろう。救いになるだろう何かを彼女にあげることは、間違いなく出来ない。

 妹が、ラスに選ばれた。それが、彼女を傷つけた。

 どうしようもない不可抗力であるのは、わかっているはずだ。その場に彼女も居たのだから。けれど真面目な性格で、周囲の期待に応えようと必死で努力してきた姉を、あんな風にまで追い詰めたのは……妹のナトラージュの存在だ。

 どんな言い訳も、懇願も、彼女は求めてはいない。

(……ごめんなさい……お姉様。たくさん傷つけてしまって、ごめんなさい。私のこと、これ以上嫌いにならないで!)

 閉じていた瞼にじわりと涙が滲んだ感覚がして、ナトラージュはパッと目を開いた。

 ぼやけていた視界がだんだんとはっきりとして、自室の様子が見えて来た。最初に目についたのは、大好きな本を読みつつ興奮しているのか。ゆらゆらと揺れる、ラスの尻尾の黒い影。

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