竜に選ばれし召喚士は口説き上手な外交官に恋の罠に落とされる

05 小妖精

 結局、彼個人の主張としては痴情の縺れではない事情で匿っていた外交官は、無言で圧を放つ従兄弟に連れられて行ってしまった。

(……顔も覚えてない女性に、会った早々に花瓶を投げられるって……何がどうなったら、そんなことになるのかしら)

 ナトラージュは白い鍵杖で黙々と地面に召喚陣を描きながら、今までの自分の人生では決してあり得ない出来事続きだった昨日のことを思い出し、なんとも言えない気持ちになった。

 確かに壮絶とまでに言えるほどの色気を振り撒く魅力的な男性ではあるから、年頃の女性として彼が近くに居たら条件反射で胸が大きく高鳴ってしまう。

 けれど、彼は数えればキリがないほどの多くの理由から、決して自分が好きになってはいけない人であろうということも、ナトラージュはきちんと理解はしていた。

(もし、彼に恋したとしたら、決して報われない地獄に真っ逆さま。住む世界が違い過ぎるし、きっと竜のラスが傍に居る召喚士が物珍しいだけだわ。すぐに飽きるわよ)

 幻獣を召喚する召喚陣を描く際には、どうしても広い地面が必要になる。それに、鍵杖で辿った跡がより綺麗に残った方が良いから、粘り気のある地質が理想的だ。

 本日は休日なので、見習いの宿舎にほど近い城の敷地内で、ナトラージュは召喚術の自主練習をしていた。付いてきたラスは、昨日遅くまで本を読んでいたらしく、暖かな芝生の上に寝転ぶと心地よさそうにお腹を出して昼寝をし始める。

「一階層目の鍵を描いて……その後に種族の指定、固体の指定は無作為ね」

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