竜に選ばれし召喚士は口説き上手な外交官に恋の罠に落とされる
 初歩の初歩なのだが、口に出して復唱する。もしこれが優秀な姉ならば、あっさりと一回で記憶してしまうだろうが、要領の良くないナトラージュは何回も何回も反復して繰り返すことによって覚えていくしかない。

(今日はまず、ピクシーを呼び出してみようかな。召喚するの久しぶりだし)

 鍵杖をまっすぐ持つと、正円を描けるように体を傾ける。これも、慣れないと難しく、正確に描ければ描ける程に、召喚への強制力が増す。

 四十階層あるという幻獣の世界の扉の、今では描き慣れてしまった一階層目の鍵を描く。次は種族、小妖精(ピクシー)の模様。これも、単純だからすぐに描くことが出来る。その中の個体を無作為に選ぶ模様は、いつも描くから描き慣れている。

 闘竜のような強い種族となると別だが、無数に存在するピクシーのような小型の幻獣を固体識別をすることは難しい。

「……ここで、扉を叩く」

 ナトラージュは我知らず小さくつぶやいて、白い鍵杖でトントンと三つの円が重なった場所を叩く。そうすると、召喚陣全体が白く輝き出した。

 召喚は、成功したようだ。

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