殺すように、愛して。
「ごめん、由良、ごめん……、重い、よね……」

「軽い。びっくりするくらい、軽い」

「……由良、いい彼氏になりそう」

「お世辞じゃない。本当に、心配になるくらい、軽い」

「ん……、仕方ないよ」

 オメガだから、という言葉は飲み込んだ。オメガは体質的に小柄な人が多くて、俺も例に漏れず、同年代の同性と比べてみても筋力も体格も明らかに劣っていた。女子が男子みたいに、成長する過程の中でがっしりした体格にはなれないように、男子が女子みたいにしなやかな体つきにはなれないように、オメガという性である以上、アルファやベータよりも小柄なのは仕方のないことだった。それで済ませないと、そのせいにしないと、やってられなかった。

 弟とは言え、アルファの匂いを間近で嗅いでいるのに、お互いになんとか理性的でいられるのは、俺が気絶するほどの快楽に溺れ、発散させたからかもしれない。あの時の余韻が未だに残っているかのように、少しの虚無感すら覚えていた。

 俺を酷く乱れさせ、責め立て、気持ちよくさせた張本人は、ここにはいない。でも、それで良かった。いない方がいい。合わせる顔がない。理性を失い破廉恥な姿を晒してしまった中で、普通の顔して会話をするなんてできるわけがなかった。反芻するだけで羞恥を感じ、顔を覆い隠したくなる。あまりにも、気持ち、よすぎた。

 自分が何かに目覚めそうになるのに気づく前に、あの場にいたクラスメート三人は大丈夫だろうかという疑問が急に舞い降りてきた。俺を襲ったとは言え、それはフェロモンに犯されただけの話であって、これも俺がオメガでなければ済んだ話だった。彼らが黛に訴えていたように、俺のせいなのはあながち間違いではないだろう。どこかズレた倫理観で跳ね返した黛には通用しなかったが、俺は自分のせいだと思っていた。俺がオメガだから。彼らも、黛も、おかしくさせた。
< 33 / 301 >

この作品をシェア

pagetop