殺すように、愛して。
 あの三人とも合わせる顔がなかった。そのうちの一人は隣の席で。気まずさに押し潰されてしまいそうだ。彼らと黛の間に余計な亀裂を走らせたのも、俺がタイミング悪く発情期になってしまったからに他ならない。黛が彼らに容赦なく暴行を加えたのもそうだ。誰に言われたわけでもないのに、俺は自分が悪いような気がしていた。そう思わされているような、気がした。なんとなく、黛に。

 俺に対しても、俺以外の人に対しても、黛の言動の節々からは、暴力性が感じられた。実際に暴力を働いていた。黛はそれを、悪いことだと思っている様子はなくて。あの目は、あの行動は、罪悪感を抱いている人がするものではなかった。申し訳なさの欠片も感じられなかったし、相手がボロボロになるのは当然の結果だと言わんばかりの態度で。俺を紳士的に助けようとしたわけでもないのは、その後の俺に対する彼の行動を見れば明らかだった。平然と首を絞める時点で、そうしながら直に触って責める時点で、黛は、言葉は悪いかもしれないが、普通とは少し違っていた。

 人に暴行を加えても罪悪感を感じないような、良くない人物、かなりの危険人物に目をつけられてしまったと思わずにはいられない。今までほとんど関わりなんてなかったのに、どうして急に言い寄ってきたのか。その理由も見当がつかなかった。俺は必死に隠していたのに、黛は当然のように俺がオメガであることを見透かしていたし、発情期を迎えそうなことも、当事者の俺よりも早くに予測していた。昨日今日で俺に興味を持ったとは到底思えない事象ばかりで、もっとずっと前から、黛は俺に唾をつけていたのかもしれないとぼんやりとした頭で思案する。知らない所で、知らない間に、こっそり唾をつけられ続けていたのだとしたら、黛の言葉一つ一つが、俺に重たく巻きつく鎖のように見えてしまった。
< 34 / 301 >

この作品をシェア

pagetop