殺すように、愛して。

5

 目が覚めて、包帯を巻き直して、制服に着替えて、顔を洗って、歯を磨いて、すぐに家を出る。これが俺の、学校がある日の、毎朝のルーティーンとなっていた。両親に会わないように。両親の姿を見ないように。逆に自分の姿を見せないように。最小限の物音で、消せているかどうか分からない気配を消して、朝食を摂ることなく早急に家を出て行くのだ。

 そうやっていつも気を遣ってしまっているせいか、両親のいる家では常に緊張してしまっているせいか、家から一歩外へ出ると、張り詰めていた空気が解け、その一時的な解放感と毎朝訪れる関門を突破した安堵感に、俺は思い切り息を吐いてしまうのだった。

 存在がバレる前に逃げてしまえば、姿を晒さないように静かに消えてしまえば、両親を不機嫌にさせることもないだろうし、何より自分の身の安全を確保できる。それが無事に成し遂げられたことに、よかった、今日も成功した、近頃は割と上手くいっている、とほんの少しだけ肩の力を抜いた。何度か失敗して、汚い罵声の言葉と敵愾心を露わにした身勝手な暴力を投げ渡されたことがあったからこそ、真新しい傷に震えることなく登校できることが、俺の胸を撫で下ろさせるのだ。

 俺を見るだけで嫌悪感を示して苛立ちを募らせ、漏れなくストレスを感じる両親にとって、俺の存在はストレッサーそのものだった。俺が、ストレスなのだ。ただ、そこで息をしているだけで、何も悪いことはしていないのに、ただ、そこにいるだけで、ストレス。喋ればもっとストレス。弟の由良といてもストレス。両親の目の前で、両親のお気に入りのその由良と喋ろうものなら、激しく憤慨して乱暴に由良から俺を引き裂くに違いない。怒りの矛先は、ストレスの矛先は、その原因となっている俺に向けられる。余すことなく全て。
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