Honey Trap
―――いやに浮かれている。
そう、思った。
教科書をなぞって淡々と授業を行う教師の声や、表面だけの無意味な友情を確認し合う生徒たちのおしゃべりが、雑音となって通り過ぎていく。
その中でやけに浮き足立つ周りの様子に、会話が噛み合っていないような、ボタンをかけ違えたような、そんな些細な違和感が生まれる。
テスト明けというには、それにしては休みを挟んで日にちがたっているし、これほど持続するものだろうか。
その正体が判明したのは、1限目から退屈な世界史の授業が終わった休み時間のことだ。
「ねぇ、聞いて聞いて!」
「稲葉先生の誕生日、昨日だったらしいよ!」
私の机で英語の単語帳を広げる里央のもとへやってくるなり、いつものメンバーたちが口を開く。
なるほど、と。
それを聞いた私は妙に納得して、この浮かれた空気のわけを理解した。
あの男の人気は、教師の立場でも今までと違わず健在らしい。