Honey Trap



頬杖を突いて外の世界に意識を逃したって、窓ガラスに映る現実が容赦なくて。


作り上げてきた世界が侵されていく。

どこまでも逃げられない現実に、瞼を下ろしてそれを遮断した。


……あぁ、私が大切にしてきたものたちが、為す術もなく亀裂から零れ落ちる。

なんのために、大事に、大事に、守ってきたんだか。


こうやって、いとも簡単に、あっけなく。

終わりはやってくるのだ。



所詮、この男にとって私の存在なんてそんなもの。

簡単に手放してしまえるようなものでしかない。


今も、あの時も。



「騒ぐな騒ぐな」


なにもなければ、噂や憶測なんてすぐに風化していく。

けれど、完全に消えることはない。


鎮火することのない残り火が、どこかで燻り続ける。



< 153 / 296 >

この作品をシェア

pagetop