Honey Trap



…………信じられない。

なんてことしてくれてんの?



「…ちょ、おまえら落ち着けって…」


自分で招いた事態に、まるで焦った表情を顔に貼りつける男の姿は、さっきまでとは反対に情けない。


私だけが知っている。

こんなものは、この男の演技だ。


私が、どれだけ必死に隠してきたと思ってんの。

ひとつの綻びだって許されないのに。

わざとらしく途方に暮れたような顔をして。


さっさとこいつら黙らせなさいよ。



怒りが、ぐつぐつと煮えたぎる。

頭の中は支離滅裂だ。



クラス中の視線が、右往左往する。

不躾に、私たちの間を。

勝手な憶測を、勝手気ままに口にして。



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