Honey Trap



「美千香、口開けて」

「は?」


カサカサとビニールがこすれる音が聞こえたと思ったら、いきなりなにかを口の隙間に突っ込まれた。


「ん、」


唇をこじ開けるように、強引に押し込まれる。


「……チョコ…?」

「あまっ」


毒でも飲まされるのかと思ったけれど、ずっとポケットに入れていたのか柔らかくなったそれの、男の指の熱で溶けた部分から甘味が広がる。

男は指先についたチョコを舐め取る仕種を、いやに官能的に見せつける。


「ほら、俺、甘いの苦手だからさ」


なんて、誰から貰ったのか、暗に匂わせるような台詞をわざとらしく耳元に吹き込む。


口内の熱で溶けかけたチョコを奥歯で潰すと、どろり、と中からガナッシュが溢れ出した。



……甘い。

甘すぎる。



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