Honey Trap
「悪かったな、呼び止めて」
男は私を抱えたまま腰を上げると、あっけなく私を開放する。
もうさっきまでの甘ったるい雰囲気はない。
いつだって、そう。
男はいとも簡単に私を手放す。
大人のふりをして、あっさりと。
私に追い縋る術も、度胸もないと分かっていて。
そうして私はまた、開いていくだけの心の距離をどうすることもできない。
やんわりと拒絶されるたびに、途方に暮れる。
わざわざ他人に私たちの関係をばらしたり、かと思えば気が済むだけ甘やかして、こっちからは甘えさせてはくれない。
一方的だ。
「暗いから気をつけて帰れよ」
教師の仮面を貼りつける男は、余韻さえもかき消すように私を部屋から送り出す。
ひとつ。不発弾を残したまま―――。