Honey Trap



「フランスが舞台でね、」


映画の説明に、里央の話に意識を戻す。


「歌手志望の少女と、作曲家の青年の道ならぬ恋の話」


ちくり、と里央の純真さが小さく胸を刺した。

道ならぬ恋、ね。


「2人は出会った瞬間から惹かれ合うんだけど、青年には妻子がいるのね」

「道ならぬってそういう?」

「平たく言えば不倫だね」

「少女と青年って言うわりには、なかなか重いものを背負ってるのね」

「まぁね。そこからどんな人生を歩んでいくのか、だよね」


彼女はそういう子だ。

最近、里央といるのが少し息苦しい。


「恋愛映画っていえばそれまでなんだけどさ、そこにこそ人間の生々しさっていうか、生きざまが表れると思うんだよね」


ロマンスを楽しみたいんじゃなくて、そこに描かれる人をちゃんと見ている。

それじゃあ、こんな私は彼女の瞳にいったいどう映っているのだろう。



< 169 / 296 >

この作品をシェア

pagetop