Honey Trap
「フランスが舞台でね、」
映画の説明に、里央の話に意識を戻す。
「歌手志望の少女と、作曲家の青年の道ならぬ恋の話」
ちくり、と里央の純真さが小さく胸を刺した。
道ならぬ恋、ね。
「2人は出会った瞬間から惹かれ合うんだけど、青年には妻子がいるのね」
「道ならぬってそういう?」
「平たく言えば不倫だね」
「少女と青年って言うわりには、なかなか重いものを背負ってるのね」
「まぁね。そこからどんな人生を歩んでいくのか、だよね」
彼女はそういう子だ。
最近、里央といるのが少し息苦しい。
「恋愛映画っていえばそれまでなんだけどさ、そこにこそ人間の生々しさっていうか、生きざまが表れると思うんだよね」
ロマンスを楽しみたいんじゃなくて、そこに描かれる人をちゃんと見ている。
それじゃあ、こんな私は彼女の瞳にいったいどう映っているのだろう。