Honey Trap



「ねぇ、美千香」


私の席の前で足を止めた里央は、そのまましゃがみ込んで私と目線を合わせる。


なんだか珍しい。

いつもはサバサバした里央が、こんな風に丁寧に近づいてくるのは。


「なぁに?」

「来週の金曜日、空いてる?」

「金曜日?」

「そ、観たい映画の公開初日なんだけどさ、一緒に行く予定だった子が行けなくなっちゃって」


どんな下心かと思えば、かわいらしいお願いじゃない。


思い返せば、里央と2人で出かけたことなんて一度もないかもしれない。

里央の友達も含めて遊んだことなら、この間も含めてニ、三度あるくらい。


「いいよ。どんな映画?」

「ほんと?ありがとー、嬉しい」


映画について喋り出す里央は、ファッションやコスメや恋愛の話をする多数派の女子と、同じようにはしゃいでいる。

好きなものは違っても、そこに対する熱量は変わらないものなのだろうか。



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