Honey Trap
その年の夏、パパの実家である男の住む隣家に私たち一家は引っ越してきた。
それまではそこから車で30分ほど離れた街に住んでいたけれど、私を保育園に入れて時短勤務で復職していたママの本格的な仕事復帰が決まったから。
一番末の孫で唯一の女の子だった私は、祖父母にとても良くしてもらったのを覚えている。
祖父は私が小学生の時、祖母も一昨年に亡くなってしまったけれど……。
「あらあら、よく来たねぇ。いらっしゃい」
その日は良く晴れた日射しの強い日で、嬉しそうな祖父母の笑顔が眩しい太陽とともに、今でも私の脳裏に灼きついている。
「父さん、母さん、これからお世話になります」
「いいのよ。こんにちは、美千香ちゃん」
「こんにちは」
昼過ぎに到着した私たちを、祖父母は温かく迎えてくれた。
「ちゃんとご挨拶できて偉いねぇ」
5歳児らしく元気に挨拶をする私の頭を撫でると、祖母は嬉しそうに私たちを家の中に招き入れる。
今日のために用意したんだ、と祖父もおもちゃやらお菓子やらを私に渡してくれる。