Honey Trap
「断っといて」
「……」
「この間、おまえのママに誘われた」
顔を上げた男の瞳がまっすぐ突き刺さる。
いまだに崩れない笑みが、まるで突き放しているみたい。
断片的に脳に送られた言葉の欠片が、反応を鈍らせる。
「…分かりました」
やっとのことで意味を呑み込んだ脳みそが、勝手に状況にそぐう返答を唇から紡ぐ。
「じゃ」
短く別れを告げると、なんの名残惜しさもなく背を向けて去っていく。
誰にも気づかれないように、そっと息を吐いた。
ただ家族ぐるみのクリスマスパーティーを断られただけなのに、恋人に振られた時ってこんな喪失感なのかしら。
回りくどくて嫌になる。
全部、全部、私に絶望を植えつけたいみたい。