Honey Trap



「なんですか?」

「…いや?今日、おまえ懇談だろ?」


懇談の日程なんて、担任でもない一教師の男には関係ないはずなのに、いちいち把握されている。


それをこんな風に私的に聞くのは、職権濫用なんじゃないの。

職務の範疇を超えている。


「それが、なにか?」

「どーせおまえは要領良くやり過ごすんだろうなぁ」

「余計なお世話ですけど」


笑顔を絶やすことなく言葉を交わす私たちは、遠目に見たらなんてことない話をしているただの生徒と教師。

そう見えてその実、意味のない腹の探り合いだ。


「クリスマスの件」


ふ、と口元に笑みを象ったまま、瞳の色を消す。

壁に預けた体を起こした拍子に、長めの前髪が目元に翳を作る。


(髪、伸びてる…)


そんな些細なことに、押し込めていた愛おしさが募って目の奥が熱くなる。



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