Honey Trap



「せんせーも彼女とデートだろ?」


そうであってほしい、みたいな願望混じりに聞こえる。


どうしてこうもこの人は、私の神経を逆撫でするのが得意なのかしら。


「おまえら、しつこいな。いないっつてんのに」

「んなこと言って、デートの予定くらいあんだろ?」


生産性のない応酬ほど、面倒くさいものはない。

それでも学校での完璧な仮面を被った男は、どんな生徒との会話も無下にすることはない。


「ほら、ほら!見た?清水さん」

「…え?」

「これがモテ男の余裕だよ。嫌なやつ」


ひとつ、苦笑を零す仕草が、投げかけた問いに対する答えに見えたのだろう。


崩せない男の余裕に翻弄される和田くんは、更にそれを口実にあげつらう。

言いがかりのレベルでまで、けちをつけたいらしい。


この場の空気は、口が回る和田くんのペースに再び持っていかれてしまった。



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