Honey Trap
「…ちか、…美千香、待って!」
取り残してきた修羅場から慌てて追いかけてきたのか、息の切れた里央の声が思いのほか、静かな道端に響く。
縋るような瞳が痛い。
そういえば、今から遊びに行く予定だった。
「悪いけど、帰るわ」
もう二度と、彼女たちにつきあう理由もない。
里央の横にはショックを隠しきれません、みたいな顔をした和田くんがいる。
「残念ながら私、和田くんの理想の女じゃないから。理想を押しつけられるつもりもないし」
「清水さ、」
「諦めてね」
冷たく言い放つ。
友達ごっこも今日でおしまい。
男の言う通り、もう猫を被る必要もない。
不発弾は、油断した頃に爆ぜるもの―――。