Honey Trap



「…ちか、…美千香、待って!」


取り残してきた修羅場から慌てて追いかけてきたのか、息の切れた里央の声が思いのほか、静かな道端に響く。

縋るような瞳が痛い。


そういえば、今から遊びに行く予定だった。


「悪いけど、帰るわ」


もう二度と、彼女たちにつきあう理由もない。


里央の横にはショックを隠しきれません、みたいな顔をした和田くんがいる。


「残念ながら私、和田くんの理想の女じゃないから。理想を押しつけられるつもりもないし」

「清水さ、」

「諦めてね」


冷たく言い放つ。


友達ごっこも今日でおしまい。

男の言う通り、もう猫を被る必要もない。



不発弾は、油断した頃に爆ぜるもの―――。



< 263 / 296 >

この作品をシェア

pagetop