Honey Trap
「へぇ、」
突然の訪問に、男は驚くでもなく昔と変わらない飄々とした態度で、抑揚のない感嘆をひとつ吐く。
なにを思っているのか、その表情から読み取ることはできない。
男は舐め回すように私の全身を観察するとふいに、にやり、と口角を上げる。
「上がってけよ」
その背でドアを押さえるように道を開け、私を部屋へと誘い込む。
その言葉を待っていた。
ひらり、ひらり、と花の蜜に誘われた蝶のように、男のもとへ向かう。
羽を休める、なんてそんな甘やかさを望むわけじゃない。
待っているのは、自ら毒牙にかかった無様な未来。
チェックのプリーツスカートが、ふわり、揺れる。
罠にかかったのは私、と、男。
いったい、どちらだったのだろう。