Honey Trap



暑さの厳しい夏も、残暑と呼ばれるようになれば幾分か秋の気配が漂い始める。


暑さの中にも、朝晩の空気の冷たさとか、時折通り抜ける風とか、ひとつずつ秋らしさが増えていく。

9月の始まりも、そんなひとつだった。



「いってきます」


いつものようにママに手を引かれて家を出る。


その時、隣家の玄関の扉が開く音が私の耳に届いた。

つられるように視線を向ければ、ランドセルを背負った男の姿があった。


「あら、おはよう。ヒロくんも今日から学校ね」

「おはようございます。そうです」


新学期を迎えた男も、今から登校するところのようだ。


「いってらっしゃい。気をつけてね」

「はい、いってきます」


ママがにこやかに声をかけると、少し照れくさそうに挨拶をして去っていく。

初めて見るランドセル姿は、5歳の私には新鮮でますます魅力的に映った。



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