Honey Trap



「妙な甘ったるさが鼻について煩いのなんの」


ふ、と瞼を伏せると顔に翳を作る。

乾いた部屋の空気に溶けていくような、湿度を含んだ声だった。


なんの話だ、と思考を巡らせて合コンの話かと思い出す。


「教師ってモテないって聞くけど、なぜかめちゃくちゃ連絡先聞かれたわ」


珍しく荒れているな、と思えばその合コンとやらで散々な目に合ったらしい。


この男は自分の容姿のレベルの高さを理解している。

普通なら「モテ自慢かよ」と腹が立つところだけど、残念ながらこの男に関して言えば、それは自慢でもなんでもなくただの事実だ。

そしてそれが男の意図しない結果だから、ただただ同情する。


「そんなに嫌なら、なんで行ったのよ」


「行かないで」なんて、到底言えないかわいいおねだりの代わりに、かわいげのない言葉で真意を探る。


「騙されたんだよ、男だけの飲み会って」


投げ捨てるような声音に、嘘はないだろう。



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