Honey Trap
出会って初めての春。
男はランドセルを脱ぎ捨て、学生服を身に纏った。
初々しかったその姿も、今ではなんの違和感もなくすっかりそれを着こなしている。
対して1年遅れで小学校に入学した私。
ようやく男と同じ土俵に立てると思っていたのに、私を待たずに卒業してしまった男のいない学校生活。
男のいない世界で、あのつまらない日常が待っている。
春の曖昧な色彩に、私の中にあった希望が溶けて霞んでいくみたいな。
そんな、絶望にも似た心境。
これからも、ずっとそう。
私が中学生になるよりもずっと前に、また私をおいて高校生、そして大学生へと男はどんどん大人になっていく。
追いかけるたびに、男はまたひとつ、ひとつと先へ行く。
決して追いつくことのない追いかけっこ。
それなら、私はしがみつくだけだ。
"友達" と呼んでくれたこの関係に。
それは、恋とも呼べない幼い執着心だった。