社長は身代わり婚約者を溺愛する
信一郎さんが、私を見ている。

その視線のせいで、私の身体に穴が開きそうだ。


「礼奈、その方がいいのか。」

本当は、信一郎さんの胸に飛び込みたい。

でも、芹香との事が、気になって仕方がない。

「……うん。」

信一郎さんが苦しい表情をする。

私も苦しい。


「俺、行きますね。」

空気を読んでくれたのか、下沢君が動いてくれた。

「森井さん。」

私がふと下沢君を見た。

「自分の気持ちに、正直になった方がいいよ。」

「下沢君……」

「あまり頑固になると、取り返しがつかなくなるよ。」

「えっ……」

下沢君、本当は知っている?

私が、信一郎さんの胸に飛び込みたいって。

下沢君は、ニヤッとして書庫を出て行った。

部屋に残ったのは、私と信一郎さんだけ。
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