社長は身代わり婚約者を溺愛する
そんなの、大丈夫でも何でもないじゃない!

私は電話を切ると、急いで社長室に向かった。


「下沢君。私、今日休暇取る。」

「えっ⁉久しぶりの出社なのに⁉」

そう。工場の仕事を手伝っていて、1週間ぶりの出社だけど、もう一日構いやしない!

エレベーターに乗り、最上階へ行く。

「早く早く!」

最上階へ着いて、エレベーターの扉が開くと、社長室の前に信一郎さんが立っていた。

「信一郎さん……」

「礼奈……」

信一郎さんは、笑顔を見せてくれたけれど、どこか寂し気だった。

私はエレベーターを降りて、信一郎さんの前に立った。


「引継ぎは終わったよ。」

その言葉に、胸が詰まる。

「この会社、俺が28の時に、仲間と起こしたものなんだ。」

その話し方は弱弱しい。

「南は、その時の仲間なんだけど、まさか俺を追い出すなんてね。」

私は、信一郎さんを抱きしめた。

「こういう時は、泣いてもいいんだよ。」

「ははは。」

私には見える。心はズタズタに引き裂かれ、傷ついてるって。
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