社長は身代わり婚約者を溺愛する
それとも、お金を貸しているから、断らないと思っていたのかな。

どちらにしても、お見合いを断るって、容易な事じゃない。

「断る理由はどうするの?」

「ああ、適当に言っておいて。」

「分かった。」

私が適当に答えて、沢井の家に傷が付かないのかとも思ったけれど、お見合い一つ断ったぐらいで、揺らぐような家でもない事も知っている。

そして私は、芹香の家を出て、仕入れ先の銀行口座に借りたお金を振り込み、相手に電話して明日糸の仕入れをお願いした。


それにしても、人って分からないものだ。

私が芹香の代理で、お見合いを断るのだから。

相手はどんな人なのだろう。

一瞬考えたけれど、断るのにそんな事いちいち、考えていられないとも思った。


そして、日曜日。

私は芹香の家にお邪魔して、洋服を着替え、使用人の人にメイクをして貰った。

「いい?礼奈。今日は沢井芹香でお願いよ。」

「うん。あくまで芹香として、お見合いを断るのね。」

「そう。さすが礼奈は、頭がいい。」

鏡の中の私を見ると、一瞬でもお嬢様に見える。

「お車、用意できました。」

使用人の方が声を掛けて来て、私は芹香の家の車に乗った。
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