海色の世界を、君のとなりで。

***

ヒュー、と小さな音が聞こえた次の瞬間。


────ドンッ。


視界いっぱいに、大きな花がひろがった。

その迫力に、思わず息を呑む。


呼吸が、止まったかと思った。

あまりに美しくて、言葉が出なかった。


目を見開いて、満開の花によって彩られている夜空を見つめる。


……こんなに、綺麗だったんだ。


心臓の音と花火の音が、同じくらい大きく響いている。

本当に綺麗なものを見たとき、人は声を出すことができないのだと。

心が震えるほど感動したとき、声は声にならないのだと。


そう、認識させられた。

魂を抜き取られたように呆然としながら、空を瞳に映す。


次々とあがる花火は、夜空を彩っていく。

赤、黄色、オレンジ、緑。

色鮮やかな世界が目の前に広がった。


「綺麗だね……」


夜空を見上げながら、感嘆の声を洩らす可奈。

その声を聞きながら、わたしは夜空から目を離せないでいた。


花火なんて、小さい頃から何度も見ていた。

花火を見たのは、決してこれが初めてではない。


それなのに、どうして。

こんなにも心が動かされるような気持ちになるのだろう。


心にぽっかりと空いた隙間をあの一瞬で埋めてしまうような、そんな圧倒的な力。


泣きたくなるくらい、綺麗で、美しくて。
< 132 / 323 >

この作品をシェア

pagetop