NGなきワル/バイオレンス長編作完全版!👉自らに過酷を課してのし上がったワルの非情とどうしようもない”ある焦がれ”…。

チャプター16/眩い沼底

本チャプターのあらすじ⤵
確実に近づく赤い息吹…。大打ノボルは赤く猛る巣に吸い寄せられる自分を意識、その視界を定める…。

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その1


”ヒュウー、ピューン…”

”シュシュー…、ドーン…!”

ノボルは、眼前に飛びこんでくる花びらが発する、その一瞬のきらめきと雄叫び音に、若干の感傷を禁じ得なかった。

この夜…、彼は東龍会会長の自宅マンションに招かれていたのだ。
ちょうど多摩川某河川敷での花火大会ということで、6階の部屋からは眩いばかりに打ち上げ花火の閃光が一望できた。

「どうだ、言い眺めだろう」

「ええ、絶景ですね。心が洗われますよ」

実際、これはノボルの素直な気持ちだった。


...


「この花火大会はよう、もう15年続いてる。そこの河川敷じゃ毎年屋台は列を作ってるし、住人達も楽しみにしてるんだ」

「…」

この花火大会の主催は町内会の実行委員だが、真の主催者はこの地を取仕切る東龍会であった。
それを承知で、どこか嬉しそうに窓越しへ目をやる坂内の言葉は、今の大打ノボルにはどう届いていただろうか…。


...


「…ノボル、こういった開催ごとのアガリはバカにできんのだ。素人が作る焼きそばやかき氷がよう、この夜には普段の数倍でバンバン売れる。…考えてみれば、金を払うのは大人でも、大半は子供にねだられてってことだから、実際にここで銭を落とすのはガキどもと言ってもいいだろうよ。ふ…、なんのことはねえ。諸星が唱えるとっくの昔から、ガキは我々のシノギを担う”主たる消費者”だったんだ」

「…」

ノボルは眼を細め、無言で大きく頷いていた。

...


「…だがよう、ここまで日本の経済が上向いてきたらだ、親の稼ぎも増えて子供にはどんどん金を流す。そうなりゃ、こっちが喰い込める”商品”の高額化も可能ってこったわ。だろう?」

「ええ…。まあ、そうですね」

ウィスキーのロックグラスを右手に、視線は”窓の外”へ固定させたまま、坂内はまるで大学教授の講義さながらで流暢な語りっぷりだった。

「…ステレオや教材は無理でもよう、ゲーム、カラオケなんかのレジャー関連やグルメ志向の飲食系、それにファッションなんかはシノギの流通路が以前から備わってる。まあ、黙っててもガキの落とすゼニのアガリは増えるさ。だが、諸星はそれに手を加えることで、さらに新たなシノギの泉となるガキ市場を創出来ると踏んだ。そして、その市場を時代に即して仕切るシステム構想が、今まさに実行段階へと入ったとな…」

この言に至って、大打ノボルは、その講義に身の震えを感じずにはいられなかった…。




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