NGなきワル/バイオレンス長編作完全版!👉自らに過酷を課してのし上がったワルの非情とどうしようもない”ある焦がれ”…。

チャプター17/惧れの萌芽

その1


タカハシ…、いや、三貫のヤロウめ…

オレの心の奥底まで見透かしやがって

フン…、この8年弱、ハマのモブスターズ4人は皆同じ視線で走ってきたさ

まあ、長い道のりだったさ

ひたすら急がば回れを己に言い聞かせてきた

そしてやっと、辿りついたんだ

毎日毎日を積み重ねながら…

だがよう、ようやくここまで来て、オレは実際物心ついてからずっと追いかけてきた、求め焦がれるものが視界に飛びこんできたんだよ

こうなっては、それに素直に従うしかない

そこんとこで、お前らが俺をブレてると思うなら、その判断に従え

悪いが、オレの優先順位は変えられん…


...


これは、本後麻衣が相和会の武闘派エース、”撲殺人”こと倉橋優輔と婚約し、伊豆での披露パーティーの日取りが巷に流れた日、大打ノボルが素直な自分に従った”自己総活”の結論だった。


そしてそんなノボルの脳裏には自然と、8年前の晩秋…、横浜から九州熊本へ発つ日、異母弟武次郎とそのロードの指針たる共有認識を再確認した”儀式”に相当した数十分間がノーカット再生されるのだった…。


”11月とは思えない寒さだ。底冷えがするぜ…”

武次郎と別れの前夜を共にしていた大打ノボルは、心の中でそう呟いた。
大柄で力士並みの体躯を誇る武次郎は、ノボルより2歳年下で腹違いの弟だった。


...


「じゃあ、予定通り、まず熊本なんだな?」

「ああ。明日、鶴見で椎名と会う。八代在住のヤツの”仲間”には、すでにオレの受入れ態勢を段取りしてくれたようなんでな。詳しい話を聞くことになってる」

ストーブに当たりながら正面に向かい合っている兄弟二人の会話は、なんとも事務的で、それは”打ち合わせ”と言えた…。

そう…、二人はこれからの遠大な計画への一歩となる、ノボルの出立に際し、綿密な今後の申し合わせをこなしていたのだ。
実に、綿密に…。


...


「…なにしろ、オレの抜けた後はのことはお前がどんどん進めてくれ。オレも随時連絡は入れるし、そっちの状況は確認する。とにかく離れていても連携はしっかりとだ。足並みの乱れは避けないとな」

「ああ、わかってる。兄貴の不在中はオレが万事仕切るから心配はいらねえよ」

「フフ…、まあ、お前に任せておけば安心なのは俺が一番承知してるがな。ただ、諸情勢の変化には細心で気を配ってほしい。それ次第でオレたちの身のこなし方が違ってくるからな」

ノボルはストーブに前のめりの態勢で広い肩幅をいからせたまま、目を細め、弟への念押しには余念がなかった。

最も、ノボルは武次郎に全幅の信頼をおいていた。
要するに、大打ノボルは極めて慎重深い気質だったのだ…。





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