NGなきワル/バイオレンス長編作完全版!👉自らに過酷を課してのし上がったワルの非情とどうしようもない”ある焦がれ”…。
その10


この越年会議では、その後大打グループが歩むことになる路線において、大きな柱を成すいくつもの決定を見た。
そのことこそ、事実上、この席の4人がリーダー・大打ノボルの運命をも方向着けたのかも知れない…。

...


”ゴホッ、ゴホッ…”

「ノボルさん…、大丈夫ですか?」

4人による会議を終え、自宅のアパートに戻ったノボルは、入浴を済ませ寝床に入ったのは明け方だった。
初日の出が眩しく眼前に迫っていた午前6時半…、尿意を催しトイレで用を足したあと、洗面所に入った途端に激しくせき込んでいたのだ。

気が付くと、その晩部屋に宿泊して寝床にいたはずのタカハシが背中をさすっていた…。
ノボルにとってそれは、まるで母親にさすられているかのようなぬくもりを感じるものだった。


...


これまでも早朝には、ぜんそくの発作が何度もあったが、人に背中をさすられたことなどなかった。
”ルームメイト”の武次郎は、ノボルが咳き込む音量を勝る高いびきで夢の中というのがいつもだったのだから…。

所詮、弟にタカハシの”この芸当”は望むべきもなかった訳だが…。

「いつものことさ。すぐ治まる…」

「アンタ…、もっと自分を労わった方がいい。オレ達のリーダーなんだ。体はもっと大事にしてもらわないと…」

「…」

ノボルはタカハシに返事を言葉では返せなかった。


...


”デジャブのこじつけで言えば、今年は激動の一年となる…。いや、これからずっとかも…”

ノボルのこの黒い予感は、熱くたぎるモノではあったが、どこか冷え冷えする重々しい感覚も拭いきれないでいた。

”人間の明るい未来は所詮自己満足の幻覚さ。それもごく一瞬の…。そもそも、オーロラなんかが美しいってメンタル、人間以外、数百万種の動物が持ち合わせているのかよ!”

ほぼすべての人間が希望を胸に抱き迎える初日の出も、大打ノボルには、黒い闇を追い払うこともできない無力なマヌケツラにしか見えなかったのかもしれない。
今年も…。





明け方に再び熟睡したノボルは初夢を見た。
それは、過去の自分…、中学生の頃の実体験が睡眠中にフラッシュバックしたような夢だった。

言わば、実録マイストーリー…。
具体的には、腹違いの弟、武次郎と共に”家”を飛び出た、大打兄弟にとって、人生最大の転換事件と言えた”あの頃”が、新年の節目に眠りの中でなぞられていたのだ。

そう…、大打ノボルにとって、激動の、そして大きな転換の一年でもあった年越しも、変わりはなかった。

だが!
新たな年は…、いや、これからの日々毎日は、常にノボルを激動に晒す運命を投下させていくのだった。





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