時間が戻った令嬢は新しい婚約者が出来ました。

第十話 ちょっとは思ってましたよ

翌日の昼には、オズワルド様が迎えに来てくださった。



夕べは、今日からのことや色々考えていたせいか何故か眠れなかった。



寝てないのに眠気はない。

不思議だな、と思っていたがオズワルド様を見るとどうでもよくなってきた。



とにかく笑顔。

オズワルド様はどう見ても機嫌が良い。



「リディア、準備は出来ているか?」

「はい、とりあえず必要なものは準備しました。残りは後日お父様が送って下さるよう手配して下さいます」



オズワルド様は乗って来た馬車の他に荷物を運べるように三台の馬車を連れて来てくれた。

荷物を積んでいる間に私達はお父様も交え邸で昼食を摂った。



お父様とオズワルド様は以前からお知り合いのようで、先代のブラッドフォード公爵様の頃から知っていたらしい。



ブラッドフォード邸に図書館があると教えてくれたのもお父様だった。



「オズワルド様、一人使用人を連れて行きたいのですが、構いませんか?」

「勿論構わない。誰だ?」

「私の身の回りの世話をしてくれているメイドなのですが、結婚したら侍女にしようと思っているメイドなのです」

「では、正式にブラッドフォード邸で雇おう」



いつか結婚した時は侍女にしようと、以前から思っているメイドのマリオンは私より少し年上だけど、一緒に行ってくれると決まり、私には心強かった。

知らない邸に一人行くのは、少なからず不安があったから。



今から起こるはずだったレオン様との結婚では、侍女を用意される予定だったからマリオンは連れて行けないはずだったけど。



昼食が終わりオズワルド様にマリオンを紹介した後、彼女は荷物を積んだ馬車で一足先に出発した。



お父様にお別れの挨拶をし、オズワルド様は「必ず幸せにします」とお父様に一礼をした。

恐ろしい行動力だ。


お父様に見送られながら、オズワルド様と馬車に乗ると、また彼は隣に座った。



しかも、また近い!



「オズワルド様、近いですよ!」

「隣に座って何が悪い」

「もう少し向こうに行って下さい! 向かいも空いてますよ!」

「嫌だね。離れて座る理由はない」

「あります! この婚約はレオン様と婚約しない為でしょう!」



オズワルド様は何故か固まった。

何故固まる?

その微妙な表情は何なの!?

さっきまでの笑顔はどこにいった!?



「……オズと呼んでくれと言っただろう。呼び捨てでもいいぞ」

「呼んだら離れますか?」

「却下だ」

「話ができないじゃないですか!?」

「話ならこのままでも出来るだろ」



諦めて私が向かいに座ろう。



「話があるのだろ、隣にいろ」



席を立ち向かいに移動しようとすると、止められた。

その顔は少し拗ねたような子供みたいでちょっとだけ可愛いと思ってしまった。



「話はレオン様の話か? 昨日あの後、レオン様の婚約者候補からは外したから心配はいらないぞ」

「本当ですか!?」



ほっとした。

これで本当にレオン様と縁が繋がることはないと。

オズワルド様、でかしましたわ。



「オズワルド様、昨日からお礼を言おうと思っていたのです。私を助けて下さってありがとうございます」



本当に感謝した。

向かいの席に移動することも忘れそうだった。



「無事ならいい」



オズワルド様は照れたようになったと思ったが、今度は真剣な顔で私の手を握った。



「何ですか、この手は? はたきますよ」

「はたくんじゃない! ……リディア、婚約の意味がわかっているのか?」

「レオン様と婚約しない為にオズワルド様が婚約して下さったのでしょう」



オズワルド様は顔を横に向け、眉間に指を立てていた。



「人の話を聞いていないのか?」

「失礼ですね。ちゃんと聞いてますよ」

「あの出来事を避ける為だけに婚約したと思うのか?」

「……違うのですか?」

「違う」



まさか、お父様に、一目惚れしました。と言ったのは本気でしたか!?

そりゃ、ちょっとは思いましたよ。

ちょっとは、もしかして私のことを、なんて思いましたが……。



「リディア、真剣に結婚を考えてほしい」



オズワルド様は握っていた私の指先にそっと口付けをしてきて、思わずドキッとした。



いい雰囲気。

いい雰囲気です!

しかし!



「近い!」



握られた手をブンブンと上下に振るとオズワルド様の顎にヒットした。



ゴンッ! 



「……痛いぞ。返答ももらってない」



顎をさすりながら、ひきつり顔でオズワルド様が言った。



「……す、すみません」

「……隣に大人しく座るか?」

「す、座ります。そ、それとですね、結婚は考えていますからね」

「それならいい」



結局そのまま、オズワルド様に手を握られたまま隣に座っていた。

ちらっとオズワルド様を見ると、優しく私を見ており、すぐに目を逸らしてしまった。







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