時間が戻った令嬢は新しい婚約者が出来ました。

第五十六話 迫力満点でしたね

ノートン男爵親子が帰った後、リディアと昼食をそのままレストランで摂った。


ノートン男爵と、特にアリシアには不快感しかなかった。

あの親子は俺を誘惑するつもりだったのだろうが、俺に通じるわけない。

リディアを悲しませ、傷付けた者は不愉快極まりなかった。

レオン様は、おそらくアリシアの誘惑に乗ったのだろう。

その言葉通り、アリシアの上に乗ったとは思うが。

……欲求不満だったのか?

まぁ、リディアは固いからな。

レオン様では、リディアは無理だろう。



「あの……じっと見てどうしました?」

「いや、美味いか?」

「ええ、このカルパッチョは中々いけますわ」

「それは良かった」



リディアと一時の昼食を楽しんでいると、カランカランとドアが開く音がしウィルの荒げる声が聞こえ始めた。


「いけません! オズワルド様は今、昼食中です! お引き取り下さい!」

「使用人のクセにうるさいわね! 退いて!」



貸し切りにしている為か、ドアの鐘の音も不愉快な声も二階のテラス席まで聞こえる。



「オズワルド様、あの声……」

「大丈夫だ。席から動くな」



リディアの置いたナイフとフォークの音が聞こえないくらい不愉快な声の主は、カツカツと二階に上がってきた。



何の用だ。

まさかリディアを狙っているのか。

やはり、リディアと関わるようになっているのか。



リディアを庇うように彼女の席の前に立ち、不愉快な声の主アリシアを制した。



「何の用です。アリシア」



「オズワルド様! お止めしたのですが、ご令嬢が!」



「まぁ、忘れ物をしたとお願いしたのですが、勝手に騒がれてしまいまして……。礼儀のない使用人で困ってしまっています」



アリシアは、同情を買おうと弱いふりをしているように見えた。

俺達が二階にいるから、ウィルとのやり取りが聞こえんとでも思っているのか。

そんなものが俺には通じんと、この女はわからんのだろう。

不愉快だ。



「礼儀がないのはアリシアでは? ウィルに非礼はない。ノートン男爵はどうした?」

「……父は用がありまして……彼女は?」



あのネックレスを着けたアリシアはそう話しながら近付こうとする。
それは、許せるものでもなく、冷たい感情が身体を走った。



「近づくな。彼女に近づくことは許さん」

「ご挨拶だけ……」

「近づくなと言っただろう。俺が冷静なうちに去るんだ」



俺は闇魔法を足元からじわじわと出した。

牽制のつもりだが、近づくなら闇に飲み込んでもいいとさえも思える。



「公爵の招待もなくプライベートに勝手に入り込み、無礼を働いたと突き出してもいいんだぞ。……それとも、闇に飲まれたいのか?」



俺が足元から出した闇に、アリシアは、「ヒィッ」と恐怖に表情が歪み、青ざめながら後ずさり必死に言った。




「ハ、ハンカチを落としたので、そのっ、取りに来ただけですっ……!」

「ウィルに謝罪をしろ。俺の従者だ」

「じゅ、従者に?」

「今すぐだ」

「……す、すみません」



もう一睨みをすると、アリシアは再度謝罪した。



「も、申し訳ありません」



リディアとの時間を邪魔し、許可なくリディアに会うことに腹立たしさが増していた。



「ウィル! 一階のテーブルの下を見てこい!」



ウィルは畏まりました。と言い一階に急いで降りると、テーブルの下には確かにハンカチが落ちていたようだ。

小さく折り畳まれ、分かりにくいように。

後で来る為にわざとおいていったのだろう。



「ウィル、ハンカチを渡してさっさと追い出せ」

「畏まりました」



追い出されるアリシア。だが、本人もその場から離れたかったようで逃げ出すように、レストランから出ていった。



「……リディア、大丈夫か?」

「……オズワルド様、その足元の魔法は? 黒いマントがバタバタしてるように動いてますよ」



スゥーと魔法を収めリディアの手を握ると、手を握らないとわからないくらいだが、微かに震えている。




「魔法が怖いか? それとも、アリシアか?」

「怖くありません。オズワルド様の魔法ならもっと怖くありませんよ。……それに迫力満点でしたね。あのアリシアが逃げましたよ」

「守ってやると言っただろう」



リディアはふふっと笑う。



「また、私に止めを刺しにきたのかと一瞬思っちゃいました。でも、オズワルド様に近付きたくて来たように見えましたね」

「……レオン様の時も、同じような手を使ったのかもしれんな。だが、俺には効かん」



そう言うとリディアは軽く瞳を閉じ、握っている手を握り返すように指と指の間に絡めてきた。



「……オズワルド様と婚約して良かったです」



思いもかけず、リディアは嬉しいことを言ってくれる。

手を握ったままリディアを見つめると目が合い、それは引き寄せられそうな瞳だった。

握っているリディアの手を引き寄せると、そのまま唇が重なっていた。





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