とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
(まばた)きする音すらも聞こえそうな距離。
わたしは息をのみ、高鳴っていく心音を強く、痛く感じる。

それなのに邑木さんはそこから先には動こうとしない。
薄く開いた目でわたしを眺める。それだけで。


しないんですか。やめるんですか。


そうやって言ってしまうことだってできた。

それなのに、こともあろうかわたしは自分から唇を重ねてしまった。
待てを知らない猫のように、目の前の唇に飛びついてしまった。


悔しい。してやられた。


あたたかい指が、よくできましたと褒めるようにわたしを撫でる。
親指は頬を、人差し指は耳朶を、中指から小指は首筋を。
すべての指で、愛でられる。


邑木さんとキスをするのはあの夜以来で、あのときは()だった。


ああ、邑木さんとキスをしてるな。
そんな程度の感想だった。

まるで他人事のような、無気力と無関心。


それなのに、どうしてだろう。
いまのわたしは泣きだしてしまいそうなくらい、解放と混乱であふれている。

軽薄そうな唇に、あたたかい指先に、泣かされてしまう。
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