とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「苺を食べるときって、少しはらはらしない?」

「はらはら?」

邑木さんの言っていることがわからず、わたしは首を傾げた。

「口に入れるまでどれくらい甘いか、酸っぱいかわからないから。そういう、はらはら」

「なんだ。邑木さんも小心者じゃないですか」

笑い声を零すと、ソファーの上の邑木さんの手がそろりと動いた。
わたしの手に邑木さんの右手の先が微かに触れ、離れていた距離が縮まる。

「由紀ちゃん」

名前を呼ばれたのと身を乗り出されたのは、ほとんど同時だった。

「キスして、いいかな」

息がかかるにはまだ遠く、邑木さんの香りに抱かれるにはじゅうぶんな、そんな距離だった。
この(ひと)が確認するのはあまりに意外で

「……わざわざ確認するんですか」

そう言っているわずかの間に、わたしの中の混乱を必死に(なだ)めようとする。
だけど、混乱はちっともやわらいではくれない。

「そういえば、こんなことはじめて訊いたな」

「わたしだって、こんなことはじめて訊かれましたよ」



それなら、ちょうどいいな。



よくわからないことを言い、邑木さんは唇を近づけた。
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