とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
沈黙を誤魔化したくて、いってらっしゃい、と言った。
慣れない言葉がこそばゆい。
邑木さんはいってきます、と言い、隙をついて頬へキスした。

もう怒る気にはなれなかった。
それでも、されるがままというのは嫌で

「勝手にキスしたお詫びをしてください」

「へえ、めずらしいな。君がそういうことを言うのは。
お詫びって、どうしたらいい?」

「プリン」

「プリン……」

「そうです。プリンです、プリン。コンビニの。普通の、プリン」

「プリンか。わかった」

駅へと向かう邑木さんを見送りながら、その背中にひーくんの背中を重ねた。
ひーくんよりもずっとしっかりとした、分厚い邑木さんの背中。
ふたつの背中は、まったく重ならなかった。


後を追いかけたことはいいことだったのだろうか。
それとも間違っていただろうか。

恋人ごっこの正しい在り方を考えてみても、答えなんてものはわからなくて。
わかったのは、この寒空の下でもあの(ひと)の躰はあたたかいということだけだった。
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