とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「もる子ちゃん、もうすぐ結婚するのにそんな冗談言っちゃだめでしょう」

ぐらり。手の中のグラスが大きく傾いた。
あ、と声にならない悲鳴を胸の中で上げ、両手でしっかりとグラスを握りしめた。

「え、結婚? もる子ちゃんが結婚?」

「うん。じつは」

照れくさそうに言い、はにかむ。
見たことのない、やわらかな表情だった。

「わあ、おめでとう! 前に話してた、ラグビーやってる人? おめでとう!」


どうしよう。

きれいな気持ちでよろこべない。


わたしのことと、もる子ちゃんのことはまったく別のことなのに。
関係ないことなのに。


胸に丸く穿(うが)たれた空虚。
真っ黒で、先が見えない。

わたしだけが。わたしだけが世界で一人ぽっちになったように、どこまでも心細くなる。


それでも、口ではおめでとうを繰り返した。

いつプロポーズされたのか。もう一緒に暮らしているのか。結婚式はするのは挙げるのか。
答えを聞いても耳を通り抜けてしまう質問を絞り出す。

いまのわたしが持っているすべての力を、笑顔に、祝福の声に、注ぐ。
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