とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】



――行くのはいいんだけど、パクチーの多い料理はちょっと……。
カメムシみたいな嫌な臭い、しない?



タイ料理店へ行こうと誘ったとき、困ったように言ったひーくんの顔を思い出す。

わたしが怪訝な表情を浮かべると、ひーくんは康くんと波多野さんに同意を求めた。
二人はわたし達のやり取りにただ笑うだけで、同意も否定もしなかった。

あのときは、「やめてよ。食べるたびにカメムシ思い出しちゃう。パクチー好きなのに」と笑って返したけれど、いまなら別の言葉が口をつく。


カメムシ以下の人間が、カメムシもパクチーも非難するな、と。


防音性が高いのか、静か過ぎる部屋に落ち着かなくなり、テレビをつけた。
無駄に大きくて薄いテレビ。
大きいはわかるけれど、そこまでの薄さをテレビに求める理由がわたしにはよくわからない。


老後は。年金は。少子化が。これからの時代は。
テレビは相変わらずよくしゃべる。

「つまんな」

呟いて、電源を切った。
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