好きになっちゃ、だめでしたか?
「いいこと思いついたわ。今から俺のクラス来る? その名も、ストレス発散部屋」

 留衣の兄貴は「はーい、みんな起立」と俺たちを立ち上がらせ、体育館から3年の教室がある校舎へと移動し『ストレス部屋』と書かれた教室へと案内した。

 でかいゴミ袋の中に紙やら手のひらサイズの柔らかそうなボールがいれられてあって、『ストレス発散しよう!』と書かれている。

 実際に、数人の人が思い切り殴っている。

 あーすっきりした、模試の結果悪くて落ちこんでたんだわ、と会話が聞こえてくる。

「ほら留衣。これで思いきりストレス発散してやれ」

 と言われた留衣は、遠慮がちに殴りはじめた。

 その強さはどんどんと強くなって「どうして間違えるの!」と声を出してまでいる。

「なあ、ちょっといい?」

 留衣の兄貴は、廊下を指さしている。

「あ、はい」

 廊下に出ると、壁に背中をつけて「あいつ、大丈夫なの?」と聞いてきた。

「まあ……大丈夫かはまだ分かんないですけど」

「そっか」

 留衣の兄貴は腕を組んで、んーっと声を出した。

「で、蒼はどう思ってんの、留衣のこと」

「え、いや、それは、その……まあ、その」

 つうか、なんで俺の話になってるんだよ! 

「おお、自覚したって感じか」

「いや、まあ、はい」

 好きなやつの兄貴に気持ちがバレるなんて、この上なく恥ずかしい。

「あいつ、俺に言えないこともお前になら言えるっぽいし、まあ、兄の俺としてはお前が恋人になるかもっつうのもちょっと不安だが」

「なんでですか」

「いや、まあ、冗談。今はさ、たとえ留衣が蒼のこと見てくれなくても、支えてくんない?」

 本当は不安しかないけど、と、再び同じ言葉を繰り返す。

「もちろん、そのつもりですよ」

「おお、頼もしいな」

「でも……」

 神山が留衣のことを諦めないと俺に宣言してきたことを言うか迷い、しかしやはり止めることにした。

「あ、いや、なんでも」

 留衣の兄貴は俺の顔を見るだけで、聞き出してこようとはしてこなかった。

「まあ、なんかあったら俺に相談してくれてもいいし。しかし、勘違いで告白はねえ。しかもあの顔で。俺なら寝こむわ」

「神山のこと、知ってるんですか?」

「ああ、1回だけ話したから。尾行したときに」

 さらっと衝撃的な単語を言う留衣の兄貴に、開いた目が元に戻らない。

「いや、心配で。兄としてな? 本当だからな? 決してからかってやろうとかじゃないからな?」

「あ、はい」

「んだよもう、ま、とにかく、そういうことで。そろそろ戻るか」

 教室に戻ると、留衣はだいぶすっきりとした顔をしていて、隣では矢崎が「勘違いってなんだこのやろうー!!」と言い、ボールを殴っていた。
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