世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!
 今の状況ですると、もしかしたら変に騒ぎが大きくなるのが目に見えている。

 陽鞠は、テレビをこれ以上見る気になれず消した。
 今は全てが雑音に聞こえる。
「昨日川口さんがめっちゃ申し訳なさそうに謝ってたよね」
 
 誘拐されたその夜に川口は勤に連れられて、稲本夫妻に謝ってきた。

 ――申し訳ございません! 琥珀様と翡翠様を見失いました!

 いつもの淡々とした口調で、途中でコンビニに寄ってお手洗いに行った後に、2人がいなくなっていたと。

 庄吾は何も言えなかったが、それ以上に勤がカンカンに怒っていた。

『もしそうだったら、警察に先に連絡した旨を庄吾と陽鞠さんに言うのが先でしょうが!』

 あまりにも強い剣幕で怒る勤に、川口はただただ「申し訳ございません」と壊れた機械のように繰り返すだけだった。
 勤は、川口の処分は警察の捜査に協力することを条件に、事態が収束次第処分を考えると通告した。

「父さんが怒るのも無理ないね。すいとはくのこと大事にしてたし、川口さんも可愛がってたから、余計ね。当然犯人は俺も許せない」
「うん。……あれ、あの人が絡んでそうよ。警察に言ったけど、どうなるかな」

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