僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
星羅はときどき私のことも見下すように言うけど、たいして気にならない。

それよりも、一緒にいる存在がいるってことの方が、今の私には大事だから。

とはいえ、星羅は隣のクラスの子と仲がよくて、毎日のようにこのクラスになったことを嘆いている。

それに比べて、私は他クラスにも仲がいい子がいない。

人を見下すことがあっても、星羅は見た目があか抜けているし、そもそもノリがいいというか、コミュニケ―ション能力が高いのだ。

――大丈夫。それでも、高校ではうまくやれている。

少なくとも、そういうふうに見えているはず。

だいじょうぶ、だいじょうぶだ。

心の中でひたすら自分に言い聞かせる。

去り際、もう一度だけ、ちらりと白黒の写真に目を向けた。

天宮陽大(あまみやようだい)

この写真を撮った写真部員は、そんな名前らしい。

知らない名前。

そして、そのうち忘れてしまうだろう名前。

そんなことをぼんやりと確信しながら、私は漢文の授業セットを抱きしめ、星羅と並んで写真部の前をあとにした。

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