僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
「それ、俺はもう行ったよ。ロバート・フランクとリチャード・アヴェドン、ウィリアム・クライン。アメリカを代表する三人の画家の代表作だけでなく、隠れた名作まで目白押しだった」

望遠レンズの磨き具合をたしかめながら、佐方副部長が言う。

「へえ~。よお分からへんけど見たかったわあ。天宮と夏生ちゃんはなんか予定ある?」

「ないですけど」

「ないです」

私と天宮くんの声が重なった。

すると二階堂部長が、なぜか満面の笑みを浮かべる。

「ああ、そうなん? それじゃあちょうど二枚やし、ふたりで行って来て。せっかくもらったのに行かへんかったら、辰木先生落ち込むかもしれへんし」 

デートしてきたら?とでも言いたげな笑顔に、恥ずかしさが込み上げる。

合宿をきっかけに、二階堂部長は、ことあるごとにと私と天宮くんの関係をこんなふうに勝手に盛り上げようとする。

「ええと……」

気恥ずかしさから私が戸惑っている一方で、天宮くんは「分かりました、行きます」と即答している。

カメラ好きな彼は、普通に写真展に行きたいのだろう。

深読みしていた自分が恥ずかしくなって、私も素直にチケットを受け取った。
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