僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
カメラを手にした天宮くんが、私を撮るときだけに見せる真剣なまなざしを思い出す。

あのきれいな茶色い目から、色だけでなく光が失われる日が近いうちにくるのだ。

彼の抱えていたものがあまりにも大きくて、自分の悩みがどれほどちっぽけかを思い知らされた。

『だからできればまた、夏生さんの写真を撮らせてほしい』

天宮くんの切実な声が、再び胸をしめつける。

写真を撮るのが大好きな天宮くんは、ポートレイトを撮りたがっている。

おそらく、リチャード・アヴェドンの撮ったマリリン・モンローのポートレイトみたいな。

私をモデルにしたのは、昔の知り合いで罪悪感を抱いている同級生という、声をかけやすい状況が重なったからだろう。

そして失明を前にしてもなお、天宮くんは私を撮りたいと言う。

病気のことを私以外に話していないようだし、きっと単純にほかに頼める人がいないからだ。

天宮くんみたいな才能あるカメラマンが、目の見えるうちに撮る最後の写真が私だなんて、切なすぎる。

それでも私の世界を色づけてくれた彼が望むなら、私は毎日でも会いに行こう。

それが私が天宮くんにできる、精いっぱいのことだから。

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