僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
知らなかった。

つまり、霞病患者は恋をすると色彩を認識するらしい。

だからあのとき、天宮くんは少し恥ずかしそうだったのだ。

天宮くんは恋をしたことがあったようだ。

十七年という短い人生のいつの話なのかは分からないけど、奇跡を起こすくらい、印象的な恋だったのだろう。

もしかしたら亡くなる前日、病院を抜け出したのは、その人に会いに行ったからかもしれない。

始まることもなく遠い昔に終わってしまった恋なのに、嫉妬のような気持ちが込み上げる。

天宮くんの恋がもたらした色は、どんな色だったんだろう?

だけどもう、知ることもない。

天宮陽大という人間は、この世からとっくにいなくなってしまったのだから。

< 273 / 308 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop