※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「どうして教えてくれなかったんですか? 途中で教えてくれたって良かったじゃないですか!」

「こっちは一世一代の告白を偽物扱いされたんだ。このぐらいの仕返ししても、罰は当たらないと思ったんだよ」


 キース様はそう言って、意地の悪い笑みを浮かべた。そんなところまで全部、全部好きすぎて、涙が止め処なく流れる。
 これが馬鹿なわたしへの罰だって言うなら甘すぎだ。本当だったら『ざまぁ見ろ』ってどん底に突き落とされて然るべきなのに、神様は随分寛容らしい。


「ハナ」

「……はい」

「ハーーーーナ」

「…………はい」


 めちゃくちゃ抱き付きたくなる魅惑的な、けれど意地の悪い表情で、キース様は二度、わたしを呼んだ。盛大な焦らしっぷりに悶々としながら、わたしの身体が熱くなる。
 抱き締めたい。抱き締めてほしい。
 好きって言いたい。好きって言って欲しい。
 この一か月間、薬の効果があるからと好き放題やって来たツケが、ここに来て一気に押し寄せてしまった。シラフのまま、これまでみたいに「好き」って言うの、物凄く恥ずかしい。「好きって言って」とか、「抱き締めて欲しい」なんてもっと言えない。


「……今なら、あの日の願いを叶えてあげるのにな」

「……っ!」


 キース様はそんなことを言って笑った。
 あの日の願いってのは間違いなく『キスして』っていう、わたしのおねだりのことだ。これだけは、どんなにお願いしても叶えてもらえなかったから。


「言って、ハナ」


 キース様はそう言って幸せそうに笑った。それがあまりにも嬉しくて、わたしまで一緒に笑ってしまう。


「キース――――」


 結局、わたしの言葉は最後まで続くことなく、キース様に奪われた。夢にまで見た彼とのキスは、想像していたより、ずっとずっと甘かった。きっと、『惚れ薬のせい』って思いながらするキスの100倍甘くて、嬉しくて、幸せだ。


(キース様はわたしのことを想っている)


 触れ合った熱い肌が、優しい瞳が、彼の全部がわたしにそう伝えてくる。キース様は、わたしがちゃんと彼の想いを実感できる日を――――今日という日をずっと、待ってくれていたのだと分かった。


「好きだよ、ハナ」


 まるで一番初めに巻き戻ったみたいに、キース様は同じ言葉を口にする。けれどわたしの心は、あの頃よりもずっとずっと、幸せで満ち溢れていた。


「わたしも、キース様が好きですっ!」


 そう叫びながら、ポンコツ魔女は空っぽになった惚れ薬の小瓶をポイっと投げ捨てるのでした。
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