※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「あの、アンナが」

「三十分と会話がもたず、男性に逃げられてばかりのアンナが」

「……それは、わたくしが悪いのではなく、相手が悪いのだと何度も何度も申し上げているではございませんか」


 アンナはそう口にして、尊大に胸を張る。モーリスたちは開いた口が塞がらなかった。


「いや、流石は殿下と言うべきか」

「懐が違うのかもしれないわね」

「そうね。殿下はとても穏やかで、素敵な方でしたわ。これまでの男性とは違って、話題も豊富でしたし、本当に優しく接してくださいましたのよ」


 またしても、ゴッドウィンオースティン家の面々に激震が走る。アンナが自分以外の人間を良く言う日が来るなんて、例え天地がひっくり返ってもあり得ないと思っていたのだ。モーリスは自分の耳を恐ろし気に引っ張りながら、「これ、本当に現実なのか?」等と呟いている。


「それで? おまえは何て答えたんだ?」

「それは……その…………」


 その瞬間、アンナは口ごもり、頬を紅く染めた。追及から逃れるように視線を逸らし、唇をもごもごと動かすその様は、とてもじゃないが普段の高慢ちきなアンナとは結びつかない。


「ーーーーおまえも、女の子だったんだなぁ」

「お兄様、それは一体どういう意味ですの?」

(案外可愛いところもあるじゃないか)


 心の中でそう呟きながら、モーリスは小さく笑った。


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